中芸みんなの日本遺産〜「サブストーリー」コレクション〜
森林鉄道に乗って生まれ故郷へ
林田 加須さん
◆ ご紹介 ◆
林田さんは、昭和11年(1936年)生まれの81歳(インタビュー当時)。高知県長岡郡吉野村(ながおかぐんよしのむら)(現在の本山町(もとやまちょう))に住職の娘として生まれました。昭和16年(1941年)頃、父の仕事の関係で馬路村に引っ越してきました。尋常小学校の低学年の時は、馬路村と吉野村の2つの学校に通われたとか。馬路村(うまじむら)から吉野村までの道のりは、当時の林田さんにとって大冒険でした。現在は北川村にお住まいです。
聞き取り 平成30年(2018年)6月
「会話ができんくらいガタガタでね」
住職の娘として生まれた林田さんの暮らしは、同級生達と少し変わっていました。「生まれは長岡郡吉野村です。私の里は本山町にある金剛寺(こんごうじ)のお寺なんです。私が6つになるころだから昭和16年(1941年)頃、父が馬路村にある金林寺(筆者注釈:現在の金林寺は昭和19年(1944年)に薬師堂の境内北側に新築移転された)の住職としてこちらに来ました」。馬路村尋常小学校に入学しましたが、吉野村の学校にも通っていたそうです。「私はおばあちゃん子でね。おばあちゃんが「加須、さびしいからこっちに来てくれん」て言うから、いいよってね。吉野村尋常小学校にも通いました。なんとなく里(筆者注釈:両親の住む馬路村)が恋しくなったら、馬路の学校に通ったりね」。馬路村と吉野村の「二地域居住」をされていたとのことです。
当時は自動車など無かった時代です。どのように馬路村から本山町を行き来していたのでしょうか。「最初は汽車(筆者注釈:ワルシャード蒸気車)が走ってたんですよ。石炭炊いて。カタカタカタカタいうね。それが無くなってガソリン(筆者注釈:ガソリンによる内燃機関車)になってね。変な箱で安田の不動(ふどう)(筆者注釈:森林鉄道の不動駅)まで出なきゃいけなくてね」。「朝6時、始発の森林鉄道に乗って安田まで行って。そこからバスで安芸(あき)まで行って。安芸から電車に乗って御免(ごめん)まで行って。御免から汽車(筆者注釈:国鉄)に乗って大杉(おおすぎ)まで行って。そこからバスに乗って吉野村まで行きました」。現在では車で約3時間の道のりですが、当時は森林鉄道やバスを乗り継いで一日がかりの大冒険でした。
「森林鉄道はね、酔うも何もすごかったあれ。会話ができんくらいガタガタがね。車輪が小さいしね。もうあれは酔う間がないくらい揺れたからね(笑)」。低学年の時は親と一緒に乗車したようですが、高学年の頃には一人で乗車していました。「いつごろからか屋根の付いた電車みたいになってましたね(筆者注釈:客車)。とにかく今は乗りたくないというくらい、振動がすごかった」。
「椎の実は檀家のもんや」
馬路村と吉野村はどちらも山間部にありますが、当時の暮らしぶりは幼い林田さんにどのように映ったのでしょうか。「吉野村の方が賑やかだったね。お店や遊びとかいっぱいあってね。子供ながらに全然違うと。高校の頃にはダンスホールもあったのよ」。
馬路村の話に戻ります。当時の村の暮らしはどうだったでしょうか。「昔は学校で映画をやりよったね。お金取ってね。ちゃんとした映画館ができた頃の話はよく知らないけど」。「お寺の娘だから、あんまり友達の所に行っても百姓の子供達は叱られるきね。忙しいき。私はお手伝いをせんでええき、本読んだり、勉強したりしよったね」。
「家がお寺だからね、食べるものは檀家さんがお供えしてくれるわけ。馬路はあんまり豊かじゃなかったけど。(吉野村の)おばあちゃんの所はリンゴとかミカンとかお菓子があってね。「おばあちゃん、わたし白いご飯むつこい(筆者注釈:味がしつこいの意)き嫌い」とかわがまま言ってましたよ」。
お寺に対する住民の思いが違っていたのかなと振り返ります。「今思うと、馬路の方は檀家がお寺を「養っている」という感じかな。「お布施で喰いゆう」とか言われたから。馬路があんまり好きじゃなかった。本山町は「お嬢さん、お嬢さん」言ってくれたきね」。林田さんには、今でも忘れられない思い出があります。「お寺に椎木(しいのき)がいっぱいあってね。朝は椎の実がいっぱい落ちるの。その頃は、あそこに薬師堂があって、日曜日は子供達がその廻りの庭を掃除するのよね。私が椎の実を拾いよったらね「それはおまえの椎の実じゃないぞ。檀家のもんや」って言われてね」。お寺に対する考え方も、違ったようでした。
インタビューを終えて
住職の娘だった林田さん。本山町との二地域居住もされていて、まわりの子供達と少し違った視点で当時の思い出を語ってもらいました。「椎の実は檀家のもんや」という幼い頃に投げかけられたツラい言葉も、今では笑ってお話し頂きました。学生達と訪問すると、いつも笑顔で歓迎してくれる林田さん。ゆず栽培や山菜採りなど、私たちに教えてくれ、神祭(じんさい)も招待して頂くなど、実習の受け入れも協力してくれています。
【構成/赤池慎吾】
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